活動日記

賃貸か売買か 福岡で空き家について悩む一人っ子

鍵を開けても玄関の扉はなかなか開かなかった。
この家は空き家状態になってもうずいぶん経つというから、この扉も扉としての機能を忘れ、石のようにかたくなっているのかもしれない。
半ば強引に扉を開けると、太陽の光に照らされた埃が舞っていた。
お風呂場やトイレは汚れ、洗面所には虫の遺骸が転がっていた。
水場周りはお世辞にも奇麗とは言えない状態だったが、リビングや書斎などの家具はきちんと整えられていた。
その様はまるで先ほどまで人がいたのかと思わせるほどあたたかみがあった。
椅子やソファーは汚れてはいるものの形は崩れておらず、本棚に整列された大量の書籍からは持主の丁寧さが伝わってきた。
家の奥には埃が堆積していることを除けば現役で使えそうな茶室があった。
棚を開けると気品ある茶器が陳列されていた。
雨戸が開くと広い庭が目に入った。
色褪せた枯山水が淋しい日本庭園を演出している。

この家は三人家族の持ち物だったという。
明るくて誰からも親しまれる父親と着付けの先生をし、お茶を嗜む母親。そして男前でスポーツが好きな息子さん。
息子さんは父親に似たのか誰とでも友達になれるようなとても明るい人だという。
父親を早くに亡くした息子さんは大阪で就職した後も体の弱い母親が心配で何度もこの家に帰って来ていた。
母親は病院での生活が長いため家の手入れがなかなかできない。
やがて庭の草木も伸び放題になった。
剪定や草取りは独りでは大変なためなかなか手がつけられない。空き家状態が続いたからか不審者が侵入することもあった。
自分の生活もあるため息子さん一人では家を持て余してしまう。頭を抱えた息子さんは古家空家調査連絡会に相談をしてきた。

建築のプロの目から見るとこの家の造りは素晴らしくリノベーションすればまだまだ現役で使えるのだという。そのため思い出のある家をリノベーションして賃貸で出すか売買するのかで息子さんは非常に悩んでいる。
それ以前に不用品の整理も早く取り掛からなければならない。それらを独りで決めていくのはやはりなかなか難しいことだ。
玄関を出て外から家を見ると久しぶりに空気の入れ替えをしたからか家が少し元気になったように見えた。
古家空家調査連絡会として空き家となった実家を放置することに悩んでいる息子さんの助けをしていきたいと思う。